Reactのexperimental_SuspenseListを探求し、様々なローディング戦略とSuspenseパターンで効率的かつユーザーフレンドリーなローディング状態を作成する方法を解説します。
Reactのexperimental_SuspenseList: Suspenseローディングパターンの習得
React 16.6では、コンポーネントにおける非同期データ取得を扱うための強力なメカニズムであるSuspenseが導入されました。これは、データを待つ間にローディング状態を表示するための宣言的な方法を提供します。この基盤の上に構築されたexperimental_SuspenseListは、コンテンツが表示される順序をさらに細かく制御する機能を提供し、非同期に読み込まれるデータのリストやグリッドを扱う際に特に役立ちます。このブログ記事では、experimental_SuspenseListを深く掘り下げ、そのローディング戦略と、それらを活用して優れたユーザーエクスペリエンスを生み出す方法を探ります。まだ実験段階ですが、その原則を理解しておくことで、安定版APIになった際に有利なスタートを切ることができるでしょう。
Suspenseとその役割の理解
experimental_SuspenseListに飛び込む前に、Suspenseについておさらいしましょう。Suspenseは、コンポーネントがPromise(通常はデータ取得ライブラリから返されるPromise)の解決を待つ間、レンダリングを「中断(suspend)」できるようにします。中断するコンポーネントを<Suspense>コンポーネントでラップし、ローディングインジケーターをレンダリングするfallbackプロパティを提供します。これにより、ローディング状態の処理が簡素化され、コードがより宣言的になります。
基本的なSuspenseの例:
ユーザーデータを取得するコンポーネントを考えてみましょう:
// データ取得(簡易版)
const fetchData = (userId) => {
return new Promise(resolve => {
setTimeout(() => {
resolve({ id: userId, name: `User ${userId}`, country: 'Exampleland' });
}, 1000);
});
};
const UserProfile = ({ userId }) => {
const userData = use(fetchData(userId)); // use()はReact Concurrent Modeの一部です
return (
<div>
<h2>{userData.name}</h2>
<p>Country: {userData.country}</p>
</div>
);
};
const App = () => {
return (
<Suspense fallback={<p>ユーザープロフィールを読み込み中...</p>}>
<UserProfile userId={123} />
</Suspense>
);
};
この例では、fetchDataが解決する間、UserProfileは中断します。<Suspense>コンポーネントは、データが準備できるまで「ユーザープロフィールを読み込み中...」と表示します。
experimental_SuspenseListの紹介: ローディングシーケンスの調整
experimental_SuspenseListはSuspenseをさらに一歩進めます。これにより、複数のSuspense境界が表示される順序を制御できます。これは、独立して読み込まれるアイテムのリストやグリッドをレンダリングする際に非常に便利です。experimental_SuspenseListがないと、アイテムは読み込みが完了するにつれてバラバラの順序で表示され、ユーザーにとって視覚的に不快なものになる可能性があります。experimental_SuspenseListを使用すると、より一貫性のある予測可能な方法でコンテンツを提示できます。
experimental_SuspenseListを使用する主な利点:
- 体感パフォーマンスの向上: 表示順序を制御することで、重要なコンテンツを優先したり、視覚的に心地よいローディングシーケンスを確保したりでき、アプリケーションがより速く感じられるようになります。
- ユーザーエクスペリエンスの向上: 予測可能なローディングパターンは、ユーザーの注意を散漫にさせず、より直感的です。認知負荷を軽減し、アプリケーションをより洗練されたものに感じさせます。
- レイアウトシフトの削減: コンテンツが表示される順序を管理することで、要素の読み込みに伴う予期せぬレイアウトシフトを最小限に抑え、ページの全体的な視覚的安定性を向上させることができます。
- 重要コンテンツの優先表示: 重要な要素を最初に表示することで、ユーザーの関心を引きつけ、情報を提供し続けることができます。
experimental_SuspenseListのローディング戦略
experimental_SuspenseListは、ローディング戦略を定義するためのpropsを提供します。主要な2つのpropsはrevealOrderとtailです。
1. revealOrder: 表示順序の定義
revealOrderプロパティは、experimental_SuspenseList内のSuspense境界が表示される順序を決定します。以下の3つの値を受け入れます:
forwards: Suspense境界をコンポーネントツリーに現れる順序(上から下、左から右)で表示します。backwards: Suspense境界をコンポーネントツリーに現れる逆の順序で表示します。together: すべてのSuspense境界が読み込まれた後、それらすべてを同時に表示します。
例: Forwards表示順序
これは最も一般的で直感的な戦略です。記事のリストを表示する場合を想像してください。記事は読み込みが完了するにつれて上から下に表示されるのが望ましいでしょう。
import { unstable_SuspenseList as SuspenseList } from 'react';
const Article = ({ articleId }) => {
const articleData = use(fetchArticleData(articleId));
return (
<div>
<h3>{articleData.title}</h3>
<p>{articleData.content.substring(0, 100)}...</p>
</div>
);
};
const ArticleList = ({ articleIds }) => {
return (
<SuspenseList revealOrder="forwards">
{articleIds.map(id => (
<Suspense key={id} fallback={<p>記事{id}を読み込み中...</p>}>
<Article articleId={id} />
</Suspense>
))}
</SuspenseList>
);
};
// 使用例
const App = () => {
return (
<Suspense fallback={<p>記事を読み込み中...</p>}>
<ArticleList articleIds={[1, 2, 3, 4, 5]} />
</Suspense>
);
};
この例では、記事はarticleIdの順序、つまり1から5の順で読み込まれ、画面に表示されます。
例: Backwards表示順序
これは、リストの最後のアイテムを優先したい場合に便利です。例えば、最新の情報や関連性の高い情報が含まれている場合などです。時系列の逆順で更新情報を表示するフィードを想像してください。
import { unstable_SuspenseList as SuspenseList } from 'react';
const Update = ({ updateId }) => {
const updateData = use(fetchUpdateData(updateId));
return (
<div>
<h3>{updateData.title}</h3>
<p>{updateData.content.substring(0, 100)}...</p>
</div>
);
};
const UpdateFeed = ({ updateIds }) => {
return (
<SuspenseList revealOrder="backwards">
{updateIds.map(id => (
<Suspense key={id} fallback={<p>更新{id}を読み込み中...</p>}>
<Update updateId={id} />
</Suspense>
))}
</SuspenseList>
);
};
// 使用例
const App = () => {
return (
<Suspense fallback={<p>更新を読み込み中...</p>}>
<UpdateFeed updateIds={[1, 2, 3, 4, 5]} />
</Suspense>
);
};
この例では、更新はupdateIdの逆順、つまり5から1の順で読み込まれ、画面に表示されます。
例: Together表示順序
この戦略は、データの完全なセットを一度に提示したい場合、つまり段階的な読み込みを避けたい場合に適しています。これは、即時の部分的な情報よりも全体像が重要なダッシュボードやビューで役立ちます。ただし、すべてのデータが準備できるまでユーザーは単一のローディングインジケーターを見ることになるため、全体的な読み込み時間に注意が必要です。
import { unstable_SuspenseList as SuspenseList } from 'react';
const DataPoint = ({ dataPointId }) => {
const data = use(fetchDataPoint(dataPointId));
return (
<div>
<p>Data Point {dataPointId}: {data.value}</p>
</div>
);
};
const Dashboard = ({ dataPointIds }) => {
return (
<SuspenseList revealOrder="together">
{dataPointIds.map(id => (
<Suspense key={id} fallback={<p>データポイント{id}を読み込み中...</p>}>
<DataPoint dataPointId={id} />
</Suspense>
))}
</SuspenseList>
);
};
// 使用例
const App = () => {
return (
<Suspense fallback={<p>ダッシュボードを読み込み中...</p>}>
<Dashboard dataPointIds={[1, 2, 3, 4, 5]} />
</Suspense>
);
};
この例では、すべてのデータポイント(1から5)が読み込まれるまで、ダッシュボード全体がローディング状態のままになります。その後、すべてのデータポイントが同時に表示されます。
2. tail: 初期読み込み後の残りのアイテムの処理
tailプロパティは、アイテムの初期セットが読み込まれた後、リストの残りのアイテムがどのように表示されるかを制御します。以下の2つの値を受け入れます:
collapsed: 先行するすべてのアイテムが読み込まれるまで、残りのアイテムを非表示にします。これにより、アイテムが次々と表示される「ウォーターフォール」効果が生まれます。suspended: 残りのアイテムのレンダリングを中断し、それぞれのフォールバックを表示します。これにより、revealOrderを尊重しつつ、並列での読み込みが可能になります。
tailが指定されない場合、デフォルトはcollapsedになります。
例: Collapsed Tail
これはデフォルトの動作であり、順序が重要なリストにとっては良い選択肢となることが多いです。アイテムが指定された順序で表示されることを保証し、スムーズで予測可能なローディング体験を生み出します。
import { unstable_SuspenseList as SuspenseList } from 'react';
const Item = ({ itemId }) => {
const itemData = use(fetchItemData(itemId));
return (
<div>
<h3>Item {itemId}</h3>
<p>Description of item {itemId}.</p>
</div>
);
};
const ItemList = ({ itemIds }) => {
return (
<SuspenseList revealOrder="forwards" tail="collapsed">
{itemIds.map(id => (
<Suspense key={id} fallback={<p>アイテム{id}を読み込み中...</p>}>
<Item itemId={id} />
</Suspense>
))}
</SuspenseList>
);
};
// 使用例
const App = () => {
return (
<Suspense fallback={<p>アイテムを読み込み中...</p>}>
<ItemList itemIds={[1, 2, 3, 4, 5]} />
</Suspense>
);
};
この例では、revealOrder="forwards"とtail="collapsed"を使用しているため、各アイテムは順次読み込まれます。最初にアイテム1が読み込まれ、次にアイテム2、というように続きます。ローディング状態はリストを下に「カスケード」していきます。
例: Suspended Tail
これにより、全体的な表示順序を尊重しながら、アイテムを並列で読み込むことができます。アイテムを迅速に読み込みたいが、ある程度の視覚的な一貫性を保ちたい場合に便利です。ただし、複数のローディングインジケーターが一度に表示される可能性があるため、collapsed tailよりも視覚的に少し散らかって見えるかもしれません。
import { unstable_SuspenseList as SuspenseList } from 'react';
const Product = ({ productId }) => {
const productData = use(fetchProductData(productId));
return (
<div>
<h3>{productData.name}</h3>
<p>Price: {productData.price}</p>
</div>
);
};
const ProductList = ({ productIds }) => {
return (
<SuspenseList revealOrder="forwards" tail="suspended">
{productIds.map(id => (
<Suspense key={id} fallback={<p>商品{id}を読み込み中...</p>}>
<Product productId={id} />
</Suspense>
))}
</SuspenseList>
);
};
// 使用例
const App = () => {
return (
<Suspense fallback={<p>商品を読み込み中...</p>}>
<ProductList productIds={[1, 2, 3, 4, 5]} />
</Suspense>
);
};
この例では、revealOrder="forwards"とtail="suspended"を使用しているため、すべての商品が並行して読み込みを開始します。しかし、画面には依然として順序通り(1から5)に表示されます。すべてのアイテムのローディングインジケーターが表示され、その後、正しい順序で解決されていきます。
実践的な例とユースケース
以下は、experimental_SuspenseListがユーザーエクスペリエンスを大幅に向上させることができる実際のシナリオです:
- Eコマースの商品リスト: 商品が読み込まれるにつれて、一貫した順序(例:人気度や関連性に基づく)で表示します。スムーズな逐次表示のために
revealOrder="forwards"とtail="collapsed"を使用します。 - ソーシャルメディアフィード:
revealOrder="backwards"を使用して、最新の更新を最初に表示します。tail="collapsed"戦略は、新しい投稿が読み込まれる際にページがジャンプするのを防ぐことができます。 - 画像ギャラリー: 視覚的に魅力的な順序で画像を表示し、おそらくグリッドパターンで表示します。望ましい効果を達成するために、さまざまな
revealOrderの値を試します。 - データダッシュボード: 他のセクションがまだ読み込み中であっても、重要なデータポイントを最初に読み込んでユーザーに概要を提供します。表示される前に完全に読み込む必要があるコンポーネントには
revealOrder="together"の使用を検討します。 - 検索結果:
revealOrder="forwards"と慎重に順序付けされたデータを使用して、最も関連性の高い検索結果が最初に読み込まれるように優先順位を付けます。 - 国際化されたコンテンツ: 複数の言語に翻訳されたコンテンツがある場合、デフォルト言語がすぐに読み込まれるようにし、次にユーザーの好みや地理的な場所に基づいて優先順位を付けた順序で他の言語を読み込みます。
experimental_SuspenseListを使用するためのベストプラクティス
- シンプルに保つ:
experimental_SuspenseListを乱用しないでください。コンテンツが表示される順序がユーザーエクスペリエンスに大きく影響する場合にのみ使用します。 - データ取得の最適化:
experimental_SuspenseListは表示順序のみを制御し、実際のデータ取得は制御しません。読み込み時間を最小限に抑えるために、データ取得が効率的であることを確認してください。メモ化やキャッシングなどの技術を使用して、不要な再取得を避けます。 - 意味のあるフォールバックを提供する:
<Suspense>コンポーネントのfallbackプロパティは非常に重要です。明確で情報量の多いローディングインジケーターを提供して、コンテンツが読み込み中であることをユーザーに伝えます。より視覚的に魅力的なローディング体験のために、スケルトンローダーの使用を検討してください。 - 徹底的にテストする: さまざまなネットワーク条件下でローディング状態をテストし、接続が遅い場合でもユーザーエクスペリエンスが許容範囲内であることを確認します。
- アクセシビリティを考慮する: ローディングインジケーターが障害を持つユーザーにもアクセス可能であることを確認します。ARIA属性を使用して、ローディングプロセスに関する意味情報を提供します。
- パフォーマンスを監視する: ブラウザの開発者ツールを使用してアプリケーションのパフォーマンスを監視し、ローディングプロセスにおけるボトルネックを特定します。
- コード分割: Suspenseとコード分割を組み合わせて、必要なコンポーネントとデータが必要なときにのみ読み込まれるようにします。
- 過度なネストを避ける: 深くネストされたSuspense境界は、複雑なローディング動作につながる可能性があります。デバッグとメンテナンスを簡素化するために、コンポーネントツリーを比較的フラットに保ちます。
- 段階的劣化(Graceful Degradation): JavaScriptが無効になっている場合やデータ取得中にエラーが発生した場合に、アプリケーションがどのように動作するかを考慮します。使用可能な体験を確保するために、代替コンテンツやエラーメッセージを提供します。
制限事項と考慮点
- 実験的ステータス:
experimental_SuspenseListはまだ実験的なAPIであり、将来のReactリリースで変更または削除される可能性があります。注意して使用し、APIの進化に合わせてコードを適応させる準備をしておいてください。 - 複雑さ:
experimental_SuspenseListはローディング状態に対する強力な制御を提供しますが、コードに複雑さを加える可能性もあります。追加される複雑さを上回る利点があるかどうかを慎重に検討してください。 - React Concurrent Modeが必要:
experimental_SuspenseListとuseフックは、正しく機能するためにReact Concurrent Modeが必要です。アプリケーションがConcurrent Modeを使用するように設定されていることを確認してください。 - サーバーサイドレンダリング (SSR): SSRでSuspenseを実装することは、クライアントサイドレンダリングよりも複雑になる可能性があります。ハイドレーションの不一致を避けるために、サーバーがクライアントにHTMLを送信する前にデータが解決するのを待つようにする必要があります。
結論
experimental_SuspenseListは、Reactアプリケーションで洗練されたユーザーフレンドリーなローディング体験を作り出すための貴重なツールです。そのローディング戦略を理解し、ベストプラクティスを適用することで、より速く、応答性が高く、気を散らすことの少ないインターフェースを作成できます。まだ実験段階ですが、experimental_SuspenseListを使用して学んだ概念と技術は非常に価値があり、非同期データとUI更新を管理するための将来のReact APIに影響を与える可能性があります。Reactが進化し続けるにつれて、Suspenseと関連機能を習得することは、世界中のオーディエンスに向けた高品質なウェブアプリケーションを構築する上でますます重要になります。常にユーザーエクスペリエンスを優先し、アプリケーションの特定のニーズに最も適したローディング戦略を選択することを忘れないでください。ユーザーにとって可能な限り最高のローディング体験を作り出すために、実験し、テストし、改良を重ねてください。